『万作』②ジョン吉
『万作』
■ 第二章 ジョン吉
◆ ジョン吉と呼ばれる男。
ジョン吉と呼ばれる男がいる。
彼は中学2年生の時に「俺はジョンだ!」と宣言した事があったのだが、周囲は彼を「ジョン吉」と呼んだ。
それ以降も彼は周囲にジョン吉と呼ばれ続けてていた。
今、思い返してみると、何故あの時、自分に付属する名称が「ジョン」であるべきだ、と確信したのかさっぱり思い出せない。
そして、結局は目論見とは異なる「ジョン吉」と言う呼び名が彼の属性として、彼の人生に纏わりつく事となってしまった。
しかしながら、当初の目論見とは異なるその名称も捨てたものでは無く、今では自ら「ジョン吉」と名乗っていた。
本当の名前は時に不便で、それゆえ「ジョン吉」と言う名称はとても便利なものだ。
ジョン吉と呼ばれる男の本当の名前は、今では周囲の誰も知らない。
だから、彼は今ではジョン吉そのものなのである。
現在、午後12時34分。
ジョン吉は歩いていた。
◆ ポケットを使った、手のやり場に対する考察。
街の雑踏。
スクランブル交差点とは名ばかりの、単にごちゃごちゃと信号の付いた交差点。
ここは郊外のさほど大きくも無い町なのだ。
もう少し整然と道路環境が整備されているべきだと思いながら、ジョン吉は歩いていた。
そして、昼間の街灯と言うものは、何の為に立っているのであろうか。
そんな事を考えながら、時折ポケットから手を出したり、違うポケットに手を入れてみたり。
手と言うやつは、使わない時、そのやり場に困る。
だから、ポケットを使って、いろいろと、そのやり場についての考察をしていたのだ。
しかしそれは、ポケットが無い時はどうしたら良いのかについての考察を、後に必要とするものであった。
ジョン吉は、とある喫茶店へと向かっていた。