『万作』⑦昼間の終わり〈終〉
『万作』
■ 第七章 昼間の終わり
◆ 「隣の席でソーダ水を飲んでいた男」
万作は家へ着くと、ジョン吉に自分の名前を言わなかった事に気が付いた。
だから、ジョン吉にとっての万作は「隣の席でソーダ水を飲んでいた男」あるいは、それ以外の何かだったのかもしれないなと思った。
何かだとしたら、何だったのだろうか。
そして、ジョン吉にとっての自分は今頃「ひっそりと世界の何処かに佇む、誰からも忘れ去られた古代遺跡の持つ思念」の中に取り込まれてしまったのかもしれないとも思った。
自分、あるいは「隣の席でソーダ水を飲んでいた男」、またはそれ以外の何かは、そこでジョンやポリタンに会う事が出来たのだろうか。
◆ 消滅。
自宅の電話には阿部熊三からの留守電が録音されていた。
録音を再生すると、キャンセルになった原稿がやっぱり必要だと、キャンセルのキャンセルを告げるメッセージが万作に伝えられた。
「伝える為でも無ければ、伝わる為でも無く存在する文字列。」は消滅した。
すると、万作は何だか救われたような気持ちがして「新しい方の仕事」に取り掛かった。
その頃には昼間はとうに終わりを告げていたが、万作の心には「酷く晴れた空」の様な気持ちが広がっていた。
そんな一日のお話。