『万作』⑥あるロボットの話
『万作』
■ 第六章 あるロボットの話
◆ こう終わっていくべきなのかもしれない事。
「ポリタン」と言うロボットがいるのだそうだ。
だけど、隣の席に座る男が言うには、正確には「ポリタン」と言うロボットはもういないのだという。
さっきまで確かにいたような気がしたのだが、もういないのだそうだ。
「良く思い出せないのだが、喋々が飛んでいた。」のだとも、隣の席に座る男は言う。
空が酷く晴れていて、「ポリタン」はとても楽しそうなのだと、そう話すのだ。
万作は「夕方の西日の強さの事は考えないのか。」と、隣の席に座る男へ問い掛けた。
隣の席に座る男は「今はまだ14時57分だから。」と言った。
気がつくと、万作が喫茶メルヘンに着いてからすでに、二時間が過ぎていた。
万作は、憂鬱な昼間はこう終わっていくべきなのかもしれないと思った。
◆ 二度と思い出せなかった事。
隣の席に座る男の話を聞いていく内に、もしかすると「ポリタン」は、「ひっそりと世界の何処かに佇む、誰からも忘れ去られた古代遺跡の持つ思念」の中に存在するようなロボットだったのではないかと、万作は思った。
隣の席に座る男の話はどうもその様な雰囲気を持っていたし、あるいは万作がその世界の虜だったからかもしれない。
万作は気になって、隣の席に座る男にその事を聞いてみようと思った。
「ひっそりと世界の何処かに佇む、誰からも忘れ去られた古代遺跡の持つ思念」の事をである。
隣の席に座る男は、自分の名前が「ジョン」であると確信した理由ももしかしたら、その中に取り込まれてしまったのかもしれないと言った。
万作の隣の席に座る男は「ジョン吉」と言うらしい。
彼が自分に付属する名称を「ジョン」であると確信した理由が「ひっそりと世界の何処かに佇む、誰からも忘れ去られた古代遺跡の持つ思念」の中に取り込まれてしまったのかもしれないのだとすると、その「ジョン」が入った「ジョン吉」と言う名称はとても奇妙な感覚を持っていると万作は思った。
そして何故だか哀しかった。
何故哀しいのかは万作にもわからなかったし、ジョン吉にそれを聞くと、ジョン吉は「もしかしたら、ポリタンはジョンに会えたのかも知れない。」と言い、「だから哀しくないはずだ。」と言った。
万作はそうかもしれないと思ったが、どうしてそう思ったのかは二度と思い出せなかった。