『万作』⑤隣の席に座る男と、隣の席に座る男の会話。
『万作』
■ 第五章 隣の席に座る男と、隣の席に座る男の会話。
◆ あまり興味がわかなかった事。とても気になった事。
ジョン吉は「ポリタン」の事を考えていた。
考えていたのだけれど、目の前の皿が空になる頃には「ポリタン」は何処かへと消えていた。
消えていたと言うと正確では無いのだが、つまり「ポリタン」の事を良く思い出せなくなっていた。
隣の席に座っている男と会話を続ける。
ジョン吉は、湯気を立てているナポリタンと、湯気を立てていないナポリタンの違いについて、少し言いたい事があったが、その事は言わなかった。
「メルヘンナポリタン」と「ポリタン」の関係についても言おうと思ったが、皿が空になってしまったとたん、上手く言えなくなってしまった。
イメージの焦点があわなくなってしまったのだろう。
時折、その様な事に気を取られては、少しぼんやりしてしまう自分の事を隣の席に座る男はどう思うのだろうかと考えると、何だか申し訳ないような気分がしたが、その「何だか申し訳ないような気分」の正体について考え出す事には、あまり興味がわかなかったので「助かった。」と思った。
しかし「ポリタン」の行方について考えると、とても気になった。
◆ 重要な事では無い可能性が高いと容易に想像される事。
万作は隣の席に座ってナポリタンを食べる男と会話をした。
そして、ナポリタンを食べ終えた男とも会話をした。
隣の席に座る男は、夢想に耽る様に時折ぼんやりとした様子を見せていたが、それは万作の発する問い掛けが「隣の席に座ってナポリタンを食べる男」を困惑させてしまったのかもしれないと思った。
なぜなら。
例えば「ナポリタンの名称は、どんなナポリタンだって「ナポリタン」で十分。」であるかどうかなど、隣の席に座る男にとって重要な事では無い可能性が高い事は容易に想像されたからである。
そんな時だった。
隣の席に座る男はあるロボットの話をはじめた。